オリーブオイルと言えばイタリア ― そう刷り込まれたのは、最先端の「イタリアンデザート」としてティラミスが日本を席巻したバブル真っ只中の1990年頃だったように思う。
イタリア料理は「イタ飯(イタメシ)」と呼ばれ、ものすごく身近なジャンルとなり、外食と言えばイタリアン的な時代の中、家でもオリーブオイルを使い始めたバブル世代の私は
オリーブオイル = イタリア
と信じて疑わなくなっていた。
時は流れて1998年。
初めてのスペイン長期滞在地アンダルシアで、オリーブオイルの洗礼を受ける。
トーストにオリーブオイル。
スポンジケーキ作りにオリーブオイル。
目玉焼きはオリーブオイルの中で泳ぎ、ベシャメルソースもオリーブオイルで作っちゃう徹底ぶりで、グリーンの液体がたぷたぷしている5リットル容器が台所に鎮座する。
ちょっと値の張るイタリアのオリーブオイルをちまちま使っていた日本でのオリーブオイル生活は完全に塗り替えられ
オリーブオイル = スペイン
と、舌が記憶するようになっていった。
そして半年。
スペイン北部サンタンデールという街に移り住んだ。
若くてかわいい Trini (トリニィ)という女性との共同生活がスタートし、一緒に朝ごはんを食べていた時のこと。
私 「オリーブオイルある?」
Trini 「あるけど、何に使うの?」
私 「えっ?トーストにかけるんだけど」
Trini 「何言ってるのぉ?トーストにはバターでしょう。あなたはホントにアンダルシアに染まっちゃってるのねぇ」
と一笑に付された時、高校時代に地理学を嫌いになった授業風景がフラッシュバックした。
アメリカでは麦の栽培が盛んで、○○地域では大麦が、××地域では小麦が生産されています。ココ、重要。テストに出るよ。そして、春小麦と冬小麦が…
その時思ったのだ。大麦だろうと小麦だろうと関係ないではないか。全部麦で。
春?冬?コレ、覚えて意味あるの???
しかし。
意味はあった。
その土地で生産される食物は、その土地で暮らす人々の食生活と密接に関係していて、料理や味覚を決定する重要な要素だったのだ。
酪農が盛んなスペイン北部ではバターが、オリーブ産地の南部ではオリーブオイルが、パンとともに食される。文化でもあり歴史でもあるんだ…。
と雷に打たれた私は、バターを塗り塗りしている Trini の横で、パンにかけたオリーブオイルをしみじみ味わった。
おいしい。けど、アンダルシアで食べる方がもっとおいしい…。
でも、浴びるようにオリーブオイルを消費しているスペインよりも、イタリアの方が有名なのはなぜなのだろう。
そんな質問をスペイン人に投げかけると、衝撃の一言が。
「イタリア産って書いてあっても、あれ、中身はスペインのオリーブオイルだから」
えぇええぇえっっ!!!
続く…